現在、日本では労働力不足が深刻な問題となっており、介護、建設、農業、宿泊業などの業種では特に人手が足りない状況が続いています。こうした背景の中で、新たに導入されたのが「特定技能制度」です。
ここでは、特定技能制度の基本情報、背景、メリット、具体的な受け入れ方法等について詳しく解説します。
在留資格「特定技能」とは
まず最初に、特定技能制度が導入されるにいたったその背景について確認しておきましょう。
日本の少子高齢化と労働力不足
日本は1970年代半ばから急速に少子高齢化が進み、2010年代には労働力人口の減少が顕著になりました。2023年には出生率が1.30、合計特殊出生率は1.35と過去最低レベルを更新し、少子化はさらに深刻な状況となっています。 さらに2025年には団塊の世代が75歳以上となるため、労働力人口はさらに減少すると予想されています。
この少子高齢化と人口減少の問題は、労働力不足という形で社会に大きな影響を与えています。この問題を解決するために、2019年4月に新たな在留資格「特定技能」制度が導入されました。
特定技能1号
特定技能1号は「特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格」と定義されています。
もう少しかみ砕くと「就労可能とされている産業分野で働くにあたって、それ相応の知識、または経験をもっている外国人」に与えられる在留資格のことで、即戦力、またはそれに近い技術をもった外国人労働者が対象とされています。
在留できる期間は5年までで、家族の帯同は原則認められていません。
特定技能2号
特定技能2号は「特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する」外国人向けの在留資格とされており、特定技能1号よりさらに高度な技術が求められます。
日本での生活も長く技術レベルも高いとされている特定技能2号は、受入れ企業や登録支援機関等による支援の対象外になります。また資格を取れば家族の帯同も可能となります。
特定技能1号と特定技能2号の違い
特定技能1号と特定技能2号の違いを表にして確認してみましょう。
特定技能1号 | 特定技能2号 | |
技術レベル | 業務を行うのに相当程度の知識または経験を有する | 業務に関して熟練した技能を有する |
資格の要件 |
・技能試験に合格 ・日本語試験に合格 (技能実習2号を良好に終了した場合は免除) |
・高度な技能試験に合格 ・一定の実務経験を有する |
外国人支援 | 受入れ企業または登録支援機関による支援が必要 | 支援の対象外 |
在留の上限 | 5年まで | 上限なし |
特定技能2号にもなると、ほとんど日本人と変わらない活躍を期待されていることが分かります。
企業が特定技能を採用するメリット
特定技能外国人を採用することで現場の人手不足が解消できれば、生産性やサービス品質の向上が期待できます。しかし特定技能を受け入れるメリットはそれだけにとどまりません。
若い労働力が加われば社内での人材育成が好循環し、日本人社員の育成にも好影響がでます。また人材育成をすることで、日本人社員の成長も見込めます。
また外国人労働者の採用は、企業のグローバル化を促進し、海外進出の足掛かりにも繋がります。
特定技能で就労可能な産業分野
特定技能で就労可能な業種は幅広く、建設、農業、宿泊業、製造業、医療、介護、情報技術など様々な分野が含まれます。特に、日本国内で深刻化している労働力不足が顕著な分野において、特定技能外国人の活用が期待されています。
所管省庁 | 産業分野 | 人数枠 (2024年~2029年) |
厚生労働省 | 介護 | 135,000人 |
ビルクリーニング | 37,000人 | |
経済産業省 | 工業製品製造業 | 173,300人 |
国土交通省 | 建設 | 80,000人 |
造船・舶用工業 | 36,000人 | |
自動車整備 | 10,00人 | |
航空 | 4,400人 | |
宿泊 | 23,000人 | |
自動車運送業 | 24,500人 | |
鉄道 | 3,800人 | |
農林水産省 | 農業 | 78,000人 |
漁業 | 17,000人 | |
飲食料品製造 | 139,000人 | |
外食 | 53,000人 | |
林業 | 1,000人 | |
木材産業 | 5,000人 | |
合計 | 820,000人 |
「特定技能」と「技能実習」の違い
外国人材を受け入れる方法として、特定技能とよく比較されるものに技能実習制度があります。
これから技能実習制度は育成就労へと変わっていきますが、ここでは技能実習制度と特定技能の違いを比較してみましょう。
特定技能と技能実習の違い①制度の目的
特定技能 | 日本国内での人手不足解消 |
技能実習 | 送出し国への技術移転 |
特定技能は、日本国内で人材確保が難しい分野において、専門技能をもった外国人労働者を受け入れることで労働力不足を補うことを目的とされています。
対して技能実習制度は、日本の技術を技能実習生の送り出し国に移転することを目的とした、国際貢献の制度です。
特定技能と技能実習の違い②受入れ人数の上限
特定技能 | 人数制限なし(建設分野と介護分野を除く) |
技能実習 | 受入れ企業の規模に合わせた人数枠あり |
特定技能では、建設分野と介護分野を除いて受入れ人数の上限はありません。これは特定技能の要件が「相当程度の知識又は経験を有する」人材であるとされている通り、上限を設けて手厚く育成を行う、という制度ではないからです。
対して技能実習制度は技術移転のための人材育成を目的としているので、受入れ企業の規模に合わせて受入れ人数の上限が定められています。
特定技能と技能実習の違い③支援する団体
特定技能 | 登録支援機関 |
技能実習 | 監理団体 |
特定技能で受け入れる外国人は、業務上では相当の技術を有するとされているものの、日本での生活や就労先での環境に慣れるまで時間がかかることがあります。そのため、受入れ企業は登録支援機関に特定技能人材の支援を委託することができます。
技能実習制度では、受入れの主体が監理団体であることから、監理団体のサポートのもと技能実習生を受け入れることになります。
在留資格「特定技能」を採用する日本企業がやるべきこと
特定技能外国人を受け入れる時、受入れ企業に求められるものが大きく分けて2つあります。ひとつは労働者として受け入れるための適切な雇用契約とその履行、そしてもう一つは外国人材への適切なサポートです。
適切な雇用契約と履行
特定技能外国人を雇用する際には、賃金や労働条件などの条件を十分に確認することが重要です。特に、日本の労働基準法や最低賃金法などの労働関連法令を遵守することが求められます。
最低賃金をクリアすればいいというわけではなく、特定技能外国人への報酬額は、同様の業務を行う日本人と同等以上に設定する必要があります。
外国人材への適切なサポート
特定技能外国人を受け入れる企業は、適切な支援体制を構築し、外国人労働者が円滑に業務を遂行できるようにする必要があります。また、支援計画書の作成や定期的なフォローアップも重要です。ただ、受入れ企業によるサポート体制の構築はハードルが高いため、登録支援機関に委託することができます。
特定技能1号への支援内容は以下のものが挙げられます。
- ①事前ガイダンス
- 在留資格認定証明書交付申請前又は在留資格変更許可申請前に、労働条件・活動内容・入国手続・保証金徴収の有無等について、対面・テレビ電話等で説明
- ②出入国する際の送迎
- 入国時に空港等と事業所又は住居への送迎
- 帰国時に空港の保安検査場までの送迎・同行
- ③住居確保・生活に必要な契約支援
- 連帯保証人になる・社宅を提供する等
- 銀行口座等の開設・携帯電話やライフラインの契約等を案内・各手続の補助
- ④生活オリエンテーション
- 円滑に社会生活を営めるよう日本のルールやマナー、公共機関の利用方法や連絡先、災害時の対応等の説明
- ⑤公的手続等への同行
- 必要に応じ住居地・社会保障・税などの手続の同行、書類作成の補助
- ⑥日本語学習の機会の提供
- 日本語教室等の入学案内、日本語学習教材の情報提供等
- ⑦相談・苦情への対応
- 職場や生活上の相談・苦情等について、外国人が十分に理解することができる言語での対応、内容に応じた必要な助言、指導等
- ⑧日本人との交流促進
- 自治会等の地域住民との交流の場や、地域のお祭りなどの行事の案内や、参加の補助等
- ⑨転職支援(人員整理等の場合)
- 受入れ側の都合により雇用契約を解除する場合の転職先を探す手伝いや、推薦状の作成等に加え、求職活動を行うための有給休暇の付与や必要な行政手続の情報の提供
- ⑩定期的な面談・行政機関への通報
- 支援責任者等が外国人及びその上司等と定期的(3か月に1回以上)に面談し、労働基準法違反等があれば通報
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特定技能1号には支援義務
特定技能1号を雇用する企業には、特定技能外国人が円滑に生活を送るための支援計画(1号特定技能外国人支援計画)を作成し、その計画に沿って支援を行う義務があります。
しかし、通常業務を行いながら支援計画を履行することは非常に困難であるため、支援計画の一部、または全部を登録支援機関に委託することができます。
登録支援機関について
登録支援機関とは、特定技能1号を雇用した企業に代わって、特定技能外国人の日常生活や業務に関する支援を行う機関のことです。
登録支援機関の要件には以下のものがあります。
- 〇支援責任者及び1名以上の支援担当者を選任していること
- 〇以下のいずれかに該当すること
- ・登録支援機関になろうとする個人又は団体が、2年以内に中長期在留者(就労資格に限る。)の受入れ実績があること
- ・登録支援機関になろうとする個人又は団体が、2年以内に報酬を得る目的で、業として、外国人に関する各種相談業務に従事した経験を有すること
- ・選出された支援責任者及び支援担当者が、過去5年間に2年以上中長期在留者(就労資格に限る。)の生活相談業務に従事した経験を有すること
- ・上記のほか,登録支援機関になろうとする個人又は団体が、これらと同程度に支援業務を適正に実施できると認められていること
- 〇外国人が十分理解できる言語で情報提供等の支援を実施することができる体制を有していること
- 〇1年以内に責めに帰すべき事由により特定技能外国人又は技能実習生の行方不明者を発生させていないこと
- 〇支援の費用を直接又は間接的に外国人本人に負担させないこと
- 〇5年以内に出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為を行っていないこと など
これらの要件をクリアすれば登録支援機関として登録が可能となり、受入れ企業より支援計画実施の委託をうけることができます。
特定技能1号として就労するための要件
外国人材が特定技能1号として就労するためには要件をクリアする必要がありますが、その要件は大きく分けて2つあります。
①特定技能評価試験に合格する
特定技能1号として就労するための要件ひとつ目は、技能評価試験と日本語力を評価する試験の両方に合格するというものです。特定技能として就労できるだけの技能や知識があるか、適切な技能レベルにあるかを確認するために実施されます。試験内容は、各分野の業務に関連した技能や日本語能力の評価などが含まれます。
②「技能実習2号」を良好に修了し「特定技能1号」へ移行する
もう一つの要件は、技能実習2号を良好に修了するというものです。技能実習2号を良好に修了した人材であれば、特定技能1号に相当する技能と日本語レベルを保持していると評価され、評価試験免除で特定技能1号に移行することができます。
ただし、技能実習2号を修了した職種とは違う業務分野で働くためには、評価試験と日本語能力を証明する試験に合格する必要があります。
特定技能評価試験の内容
特定技能評価試験には、技能レベルを評価する試験と日本語能力を確認するための試験の2種類があり、特定技能1号として就労するためには両方の試験に合格する必要があります。
①各分野の業務に関連した技能の試験
特定技能評価試験では、外国人労働者の技能や知識を評価するために、各分野の業務に関連した実技試験が実施されます。試験内容は分野により異なります。評価試験の結果で外国人労働者の実務能力や適性が確認でき、合格した人材は特定技能1号に見合う技能を有すると評価されます。
②日本語能力試験 (JLPT)または、国際交流基金日本語基礎テスト(JFT)
特定技能1号として就労できるだけの日本語力があるかどうかを確認するための日本語能力試験があります。日本語能力試験(JLPT)か国際交流基金日本語基礎テスト(JFT)を受験し、一定水準以上の日本語能力を証明する必要があります。
技能評価試験と日本語力を評価する試験に合格すれば、晴れて特定技能1号として就労することができます。
短期滞在の在留資格でも受験可能
特定技能評価試験は、一般的な短期滞在の在留資格を持つ外国人労働者でも受験可能です。そのため、日本国内で短期間の技能習得を目指す外国人労働者も特定技能評価試験を受験することができます。
分野別所管省庁及び試験実施機関について
特定技能評価試験は、各分野ごとに所管省庁や試験実施機関が異なります。例えば、建設分野では建設技能人材機構が、ビルクリーニング分野では全国ビルメンテナンス協会がそれぞれ試験を実施しています。
企業が特定技能外国人を採用する3つの方法
「技能実習」から在留資格「特定技能」に移行
一つ目は、技能実習生として受け入れている外国人材が技能実習2号を満了し、特定技能1号の在留資格を取得する方法です。試験を受ける必要が無いためスムーズに移行することができます。また、すでに3年間実習した実績もあり気心も知れていますので、更なる活躍が見込めるでしょう。
在留資格「留学」から「特定技能」に切り替えて採用
二つ目は、在留資格「留学」を持つ外国人労働者が、特定技能評価試験と日本語能力を測る試験に合格し、特定技能1号の在留資格に切り替えて日本での就労を開始する方法です。原則週28時間までだった労働時間も、特定技能に変更することで長時間働くことができます。
海外現地から外国人を採用
三つ目は、海外にいる外国人を特定技能として採用し、受け入れる方法です。特定技能評価試験に合格済みの外国人労働者を直接採用することで、特定技能としての就労が可能となります。多くの人材を一度に雇用したい場合などは、海外での評価試験のスケジュールを確認し、それに合わせて募集をすることで海外の優秀な人材をまとめて採用することができます。
在留資格「特定技能」で受け入れる際の注意点
それでは、特定技能外国人を受け入れる際の注意点について確認しておきましょう。
受入れ可能な分野かどうか確認
現在、特定技能1号の受入れが可能な分野は16分野とされています。今後、社会的要請等により分野が増えていくことも考えられますが、受入れ時にこれら16の産業分野に含まれているかどうかの確認が必要です。
協議会への事前加入
2024年2月15日の運用要領改正により、全ての分野において協議会への事前加入が必要となりました。下の表から各協議会への入会ページに移行できます。
所管省庁 | 産業分野 | 協議会入会ページ |
厚生労働省 | 介護 | 介護分野における特定技能協議会 |
ビルクリーニング | ビルクリーニング分野特定技能協議会 | |
経済産業省 | 工業製品製造業 | 製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会 |
国土交通省 | 建設 | 一般社団法人建設技能人材機構(JAC) |
造船・舶用工業 | 造船・舶用工業分野における新たな外国人材の受入れ | |
自動車整備 | 自動車整備分野における「特定技能」の受入れ | |
航空 | 航空分野における新たな外国人材の受入れ | |
宿泊 | 宿泊分野における外国人材受入れ | |
自動車運送業 | (※現時点では未定) | |
鉄道 | 鉄道分野における新たな外国人材の受入れ | |
農林水産省 | 農業 | 「農業特定技能協議会」について |
漁業 | 漁業特定技能協議会 | |
飲食料品製造 | 食品産業特定技能協議会について | |
外食 | ||
林業 | (※現時点では未定) | |
木材産業 | (※現時点では未定) |
協議会加入申請から許可が下りるまで、場合によっては数か月かかることもありますので、初めて特定技能外国人の受入れをご検討される場合はまずは協議会への加入申し込みを行い、それから社内での体制構築・人材の募集等を始めることをお勧めします。
まとめ
特定技能制度は日本国内での労働力不足を補うために導入された新たな在留資格制度です。特定技能外国人を受け入れるには様々な手続きや要件がありますが、登録支援機関を上手に利用し、人材を上手に活用ください。